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『トロイ戦争は起こらない』インタビュー

2022/07/25

もくじ

1. 戯曲について
2. 戯曲の面白い部分
3. トロイ戦争は起こらないは悲劇?喜劇?
4. 出演者について
5. 音楽劇という形式、楽曲について
6. 舞台美術について
7. 衣装について
8. シアター風姿花伝について

『トロイ戦争は起こらない』
神田智史×立本夏山
 作品についてのインタビュー 

 本日は8月24〜28日にシアター風姿花伝で上演予定の『トロイ戦争は起こらない』について、いろいろお話聞いていきたいと思います。よろしくお願いします。

 はい、よろしくお願いします。


 

【 1 戯曲について 】


 

 「トロイ戦争は起こらない」はどういう戯曲ですか。
 

 フランスのジャン・ジロドゥという劇作家が1935年に書いた作品です。今から3000年くらい前に語られていたギリシャ神話というヨーロッパの古典があって、その中で今でいうトルコの辺りにあったトロイという国とギリシャ連合軍が戦った戦争の物語があるんですね。その神話時代の戦争を題材に、1935年当時のヨーロッパ、第一次世界大戦が終わって第二次世界大戦に向かっていく社会情勢が不安なフランスの中で、戦争に向かっていく人間たちの姿を、神話と重ね合わせて書いた、ジロドゥの平和への想いが強く表れている作品ですね。
 

 1935年にジロドゥがその当時の世界情勢を背景に持ちながら書いた作品ということなんですけど今現在の世界情勢の中、日本人キャストで日本で上演する意味は何ですか?
 

 3000年前にトロイ戦争があって、約100年くらい前にも戦争があって、今も戦争がある。基本的に戦争が好きな人はほとんどいないはずで、多くの人が戦争で悲惨な目にあってしまうのに、戦争という歴史を人間は繰り返していますよね。単純になぜなんだろうっていう疑問があるんですよ。なぜなんだろうっていうのがわかんないと解決できないじゃないですか。その疑問に答えを与えてくれるものの一つが演劇なんです。戦争については実際の体験談など色々なもので語られていますよね。でも演劇は実際に起きたことでは無い〈作り物〉なんです。でも〈作り物〉だからこそ人間の本質的なものが見える瞬間があると思っていて。なので日本人だからギリシャ人、トロイ人のような遠くで起こったことがわからないと言うよりは、昔に起こった物語っていう意味においては何人でもあんまり関係ない。それを自分たちが今2022年に生きている日本人としてどう作品にしていくかということが面白いところかなと思ってます。それに3000年前のトロイ人の血も日本人に混じってるでしょ、多分(笑)。昔に起こったことが僕たちに全く関係ないということはないんだよね。
 

 なるほど。作品の中のトロイ戦争は今の常識とはちょっと違う理由で起こるじゃないですか。

 

 う~ん…
 

 その本質というか、戯曲の中で出て来る登場人物は本質的に何を争っていたのか。何を守るために戦争をするのか。どう思いますか。
 

 人それぞれ違うと思うんですよね。違うものを議論している。物語上で言えば、ギリシャからさらってきた美女エレーヌを返せば戦争は起こらないけど返さないと戦争が起こる、という中でエレーヌを返すか返さないかっていう議論が行われるんですけど、返すって言ってる人もなぜ返すかという理由は違うし、返さないって言ってる人も返さない理由はそれぞれ違うんです。今現在をかえりみても、みんなどうしたいかが人それぞれ違うし錯綜してて何を争っているのかっていうのはわからなくなるんだよね。
 

 その今現在の、人それぞれどう思ってるかわからない部分が戯曲の中にも含まれてる?
 

 わからない中でどうしていくのか、どうしたら良くなるのかっていうことを考えたり、話したりする必要があると思っるんです。じゃないと皆んなわかんなくてそのまま流されるままになっちゃう。やっぱり、いいと思える方向にみんなが選択して動いていかないとそうならないでしょ。
 

 そういう意味では戯曲の中でぶつかり合いながら議論していく部分も強く描かれてますよね。

 

【 2 戯曲の面白い部分 】

 

 戯曲の中では色んな立場の人がオープンに議論している、一人一人意見をぶつけ合ってるのが面白い部分だなと僕は思うんですけど、夏山さんはどういう部分が面白いと思いますか。
 

 戯曲とか小説とか詩でもそうだと思うんだけど、ある程度凝縮したものが作品になってるから基本的に無駄な会話っていうのはないんだよね。言葉としては何かしらが伝わりやすいように見えやすいようになっていて、だから言葉に書いてあることははっきりするけど、結局なんで戦争に向かうのかっていうのははっきりしない。言葉の中に真理があることじゃないから。やっぱり人間の活動の中から見出していくしかなくて、関係性とか目の前にいる人間からとか。そういうものをお客さんの前に提示して劇場で感じられて考えられるっていう風に上演されるのがいい上演だなと思っていて、こういう演目の場合は。だから何が面白いかって思ったかっていうとなんで戦争が起こったかが戯曲上ではっきりわからないことかな。ジロドゥもこれが原因だとは言ってないし、言えないんだよね。戦争がなぜ起こるか、普通に考えればわからない。
 

 確かに結末までなぜ戦争が起こるかわからない形で終わりますもんね。
 

 うん。だけどそこに生きている人たちのそれぞれ思いとか行動が絡み合って動いているとか、そういうものは見えてくる。そこから自分に照らし合わせて考えることができる戯曲だと思うんだよね。そこがいいなと思ったのかな。そこが選んだポイントというか。
 

 自分次第で色んな見方ができるという?
 

 そうだね。あと3000年前のトロイ、ギリシャの話だから、身近じゃないじゃん。誰もディテールとかわかんない、トロイ人がどういう服着てたとかその当時何が流行してたとかそういうのわかんないんだよね。例えば政治とか外交とか今の自分たちに身近なものが提示されたとしてあんまりフラットに考えられないだよね。身近すぎちゃって色んな情報がくっついてきちゃうから。
 

 確かに個人の考え方によってはっきり分かれちゃいますね。
 

 そう。その人の心情とか色んなものに絡みついて全然よく考えられない。だけど (トロイ戦争は起こらないは)3000年前の神様とかも普通に出て来るしね。そういう昔の話っていうのは余白がいっぱいあってどの人にも繋がりうる可能性があるっていうのが古典をやる面白さだなって思ってますね。

 

【 3 トロイ戦争は起こらないは悲劇?喜劇? 】

 

 なんで戦争が起こったか理由がわからないというか余白がある部分が面白い部分だと言われてましたが、じゃあこの戯曲は悲劇だと思いますか、喜劇だと思いますか。
 

 悲劇か喜劇かというジャンル分けにこだわりはないんだけど、基本的には喜劇的な物の方が僕は好きで、悲劇を悲劇としてやるよりも悲劇的なものを喜劇として見せるっていう方が考えられることがあるなと僕は思うので。この戯曲が喜劇かって言われるとちょっとわかんないんだけど、その時その時で必死に死に物狂いで生きている人間っていうのはやっぱりはたから見ると喜劇なんだよね。距離をもって見るとね。というか距離をもって見ることが喜劇なのかもしれない。あんまり感情移入して悲しくなっちゃうと考えられなくなっちゃうんだよね。ズーンとして終わっちゃうでしょ。まあそれもいい時もあるかもしれないけど僕はそういうものより距離をもって考えられた方がいいと思うから喜劇が好きなのかもしれない。
 

 確かにこの戯曲は悲劇ってわけじゃないし、ズーンと思い知らされるみたいなシーンというか言葉みたいなのはあんまりないっていうか、距離をとってちゃんと考えれるようなテーマだし、テーマの提示のされ方もそうだなって思いますね。

 

【 4 出演者について 】

 

 今回色んな方が出演されてますけど、今まで参加してきたメンバーもそうだし新しく加わった人たちもそうだし、
 

 半分以上は新しく関わる人たちです。主にしっかり経験を積んだ人たちに声をかけていて、出演者全体の平均年齢もかなり上がってますね。やっぱり経験をたくさん重ねてきた人は自分なりの考えとかやり方をそれぞれもってるからそういうものをどう生かしていくか響き合わせていくかという楽しみがあるなと思って見てますね。
 

 内容のしっかりした戯曲であるからこそ、色んな実感を積み重ねてきた人たちをということですか。
 

 それもあるし、見たことも聞いたこともない昔の国の登場人物、もしくは神様って自分の等身大じゃ演じられないんだよね。等身大じゃない、作り物としてどう立ち上げるかっていう技術が必要なんだよね。そこにはやっぱり経験が必要なので若い俳優だけでやるより経験のある方も交えて上演した方がいいなと。
 

 そうですね。戯曲の中の登場人物がどんなだったんだろうとか本当に想像の部分が大きいですよね。これは出演者の皆さんにも聞いて見たいことなんですけど、海外で書かれた戯曲を日本語で翻訳されたものであっても日本人が演じる上では価値観とかがどうしても合わないし、どうしても想像するしかない部分はどう捉えてるんでしょうね。
 

 僕も俳優だから俳優として答えると、別に海外だろうが日本だろうが(価値観が)合わないものは合わなくて、それを想像するっていうのはどの役でも一緒なんだよね。だから海外だからとか日本だからとかそれによって(考え方は)変わりはしないと思う。
 

 でも日本人の性質とかで例えばシャイな傾向があるとかあるじゃないですか、
 

 でもそれ人によって違うじゃん。シャイじゃない日本人もいるんだよね。日本人と話すより外国人と話す方がしっくりくるみたいな日本人いるじゃん。だから結局は自分と違うかどうかで、自分と同じ役ばっかりやってても成長しないしだんだん飽きちゃうんじゃないかな。自分と違うものに挑戦して何か知っていくことに役者としての楽しみがあるよね。
 

 違う部分を受け入れるというか、楽しむというか。
 

 そうね。想像して受け入れていく、変わっていくってことかな自分がね。
 


 

【 5 音楽劇という形式、楽曲について 】

 

 次は作中の歌について聞きたいんですけど、今回は音楽劇として上演することの意味、音楽を演劇の中に登場させることにはどのようなものがありますか。
 

 舞台表現においてリズムは根源的にすごく大事なことだと思っていて、ただ台詞だけの芝居でも台詞のリズムがすごく大事だと思ってます。言葉の理屈でわかる以上に伝わってくるものって色んな要素あるんだけど、その中でリズム、音楽性によって伝わるものはかなり大きいと思うんだよね。人間の身体ってもちろん色んな可能性があるし、色んな音や声が出るんだけど、そうじゃない音によって聞こえてくるイメージもかなりあって。今回も色んな楽器とか声を試しながら稽古してるのは、その場に生まれるリズムがもっと豊かに躍動的になって言葉のやりとりだけでは伝わらないような戯曲の裏側にあるエモーションが浮き出てきたらいいなっていう、そういうイメージで音楽を取り入れてるかな。
 

 元々の戯曲には音楽は全くないですよね。
 

夏 全くない。効果音をどう入れるかは演出家次第だけど、別に歌とかが書かれてるわけじゃないしね。
 

 全くない中で音楽を入れることによって、リズムから想起されるものがあればいいなってことですね?
 

夏 日本語って平板に語られがちな言語だと思ってて、この戯曲の原文はフランス語で書かれてるけどフランス語は全然違うじゃん音とリズムが。またギリシャの言葉で語られたらまた全然違うし。だから日本語のリズムの可能性ももっと広げたいなっていうイメージはある。でもただの会話で表現しようとすると、例えば何か変な発音するとちょっと変な人になっちゃうじゃん。それがすごく効果的に聞こえる時もあるかもしれないけど。そこに音楽が入ってくると常識を飛躍できる土壌ができるというか、飛び越えてもいいというお客さんとの了解ができるので、そういう意味でも言葉によるリズムの可能性を広げられるかなって思ってる。
 

 歌の作詞は戯曲を参考にしながら夏山さんがされたということなんですよね。
 

 そうね、僕が作詞というか歌のイメージを福島さん(本公演音楽担当の福島梓さん)に送ってそれを元に作曲してもらったという感じだね。
 

 梓さんが今回作曲された楽曲、ほんとにどれも素晴らしいですよね。
 

 そうだね。それぞれいいなって思いながら聞いてます。

 

【 6 舞台美術について 】

 

 舞台美術を担当されている半谷学さんはどういった方なんですか。
 

夏 最近は廃棄されたものをリサイクルして美術作品として作ったりされてる作家の方で、Kazan office.の他の事業で繋がって今回お声がけしました。
 

 今回舞台美術をお願いするにあたってどんなことをお話しになりましたか。
 

 時間。3000年前と1935年と現代っていうものの時間がどう美術として現れてくるかなっていうのは意識して作ってくださいっていうのは言ったかな。でも基本的には僕がこういう美術を作ってくださいって言うよりも、半谷さんがこの作品を読んでもらって、自由に発想してイメージを提示してもらう中で話し合いしながら作って行きましょうっていうことで進めてます。
 

(※取材時はアイデアの話し合いの進行中。)
 

神 これまでのアイデアが半谷さんからきた中では、どんなものができそうですか。
 

夏 これからまだ詰めていく段階だけど、捨てられたビニール傘の骨組みをモチーフにした美術になりそうで、工業製品とか今の人が使ってる日用品が廃棄物になって積み重なっているのか、取り残されてるのか、今の段階ではそう言うものができそうかな。
 

 何か想像してたのと全然違いますね。貴族のような人たちがメインで出てくるから華麗な建造物があったりとかするイメージなのかなって思ってましたけど、廃棄物とかで作っていく美術になると見え方的にはちょっと皮肉的というか、そういう風なセットの中で貴族と思われる人たちが演じてるのを見るとそういう印象になるんですかね。
 

 貴族っていうのが、3000年前のトロイの人たちがどういう人たちだったかっていうことだけど、いわゆるヨーロッパの貴族ってことでもないわけだよね。だからあんまり具体的に豪華にするってことよりも俳優たちの演技によって何かが立ち上がってく美術や衣装の方がいいなと思っていて、だから何か欠けてる、失われている状態がいいかなっていう話はしたかな。時を経て失われているみたいなものがあったらいいですねっていう話はしたかもしれない。
 

 めちゃくちゃ面白くなりそうですね。
 

 そうだね。素敵な感じになりそうだよ。

 

【 7 衣装について 】

 

 先ほど3000年前のトロイの人たちのイメージがどんなものなのか想像できないという話もありましたが、衣装的にはどういうものになりそうですか。
 

夏 衣装はね、傘のビニール使いたいなみたいな話は聞いてて、僕も今楽しみにしてるところです。衣装の金田さんは、高度な妄想ワールド全開な人だから僕が言わなくても面白いアイデアどんどん出してくれるんだよね。
 

 じゃあ衣装的にも想像できうる感じにはならないですかね。
 

夏 そんな突飛なことにはならないと思うけど、普通ではないだろうね(笑)。
 


 

【 8 シアター風姿花伝について 】

 

 上演する劇場である風姿花伝の今までの印象だったり今回の上演にあたって何か思っていることはありますか。
 

 風姿花伝、そうですね。とてもいい活動をしている小劇場だなっていう印象はあって、劇場空間としてもあんまり大きい舞台をやるような広さはないんだけど、見やすいし舞台空間もそこそこ広く取れるし小劇場としていい劇場だなと思っているので、今回初めて使ってみようってことにしたんですよね。劇場スタッフの方々もいい人たちで協力的なので、そういう意味でもいい劇場だなと思っています。

 

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 ということで、今回の公演についていろいろ伺ってきました。公演まで1ヶ月を切りましたので、ここからどんどん形になっていきますね。
 

夏 はい。人間劇場は今回四回目の公演ですが、次のステップに踏み出す挑戦の舞台だと思っています。ぜひ劇場まで観に来てください。
 

神 今日はありがとうございました。
 

夏 ありがとうございました。


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